CAMOUFRAGEカムフラージュ
1
ない!
ない、ない、ない……、ない!
デイパックの中を小忙しそうに探っている広川美樹を、
レジカウンターの前に立つ男性店員がチロリと見た。
「あ、ちょっ…ちょっと、待って」
美樹はついに座り込んで、デイパックを逆さにし、中のものを振り出す。
後ろに並んで支払い待ちをしていた客が、ギョッとして二、三歩後退する。
カウンターの横の床に、バサバサと音を立て、
本やルーズリーフやレジュメの紙束やCDが広がった。
美樹は本の背を持って振る。
ノートを振る。
続いてスケルージュール帳をパラパラと捲る。
デイパックの内ポケットを探る。
ない! ない! ない! マジないぜ!
なんでだ?
美樹の顔からスーッと血の気が引く。
うそだろ? どうしよう?
困った顔を上げると、品の良い店員も、控えめに困惑の表情を浮かべた。
財布はある。数百円の小銭が入った財布は。
ないのは、昨日貰ったばかりの、一カ月分のバイト代が入った封筒。
今月分の生活費だ。
昨夜、バイト先のマネジャーから受け取って、
確かにこのデイパックへ入れたのに……。
ここの支払いもだが、なによりもそれがないってことは、
すなわち、一カ月生活ができないってことなのだ。
「あの……」
店員が、落ち込んだ美樹のようすに、遠慮がちに上方から声を掛ける。
そうだ、ここの払い……。
美樹は奥に広がる店の中を振り返った。
お昼時の大学構内にある食事の店は、どこもだいたい込んでいる。
いつもの学食なら、探せば一人や二人知り合いは、いるだろう。
しかし、きっと今日はいないだろう。
多分いない。おそらく。いや絶対。
中で食事していた時も、自分の周りの席には、
知った顔はいなかったように思う。
美樹はチッと大きく舌打ちをし、
「くそお」
と、その顔や雰囲気に似合わない汚い言葉を吐き捨て、
しゃがんだまま、恨めしそうに店内に視線を泳がせた。
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