Neko





CAMOUFRAGE
カムフラージュ








広川美樹は、この春、

晴れてこのマンモス大学の法学部に入学したばかりの、

ピカピカの一年生男子である。

美樹と書いてヨシキと読むが、

幼い頃から誰もがミキと呼ぶ。

クリっとした目の、可愛らしい顔と線の細い印象が、

ヨシキというよりミキらしい。

そもそも女の子が欲しかったという両親が、

愛娘用にと準備していた名前に、

そのまま読みを変えて当てがったのだという。

子どもの時は、

そう呼ばれるのが非常にコンプレックスだった。

その外見も相まって、

初めて同じクラスになる奴らには、

必ず女子と間違えられた。

小学三年新学期初日、あろうことか、

性別など確認済みであるはずの担任教師にさえ、

間違えられたことに頭にきた美樹は、

ミキとは呼ばせない強面になってやる、

と、即日学校帰りそのまま空手道場の門を叩いた。

が、三日で辞めた。

痛いのが大の苦手なのである。

思案の末、美樹は、

ことさら強気な態度と乱暴な言葉で、

男っぽさをアピールすることにした。

特に初対面のヤツには、嘗められないように、

努めてガラ悪そうに振る舞うのだ。

現在はそれが人格化し、口が悪いのはもはや美樹の個性だ。

ま、今のフツーのワカモノ言葉なのだが、

外見のその甘い印象とあまりにも似合わないので、

最初は皆、面食らう。

しかし、もともと行儀には厳しい家庭に育ったので、

付き合いが始まれば礼儀正しい若者だ。友人も多い。

そのミキこと美樹が、

今すがるような目を向けているのは、

普段、彼が利用する学生会館一階の、

庶民派学生向けカフェテリアではなく、

キャンパスプラザ館五階の、

教員らやリッチな学生、学外のお客様向けの、

フレンチレストランである。

関係業者のほか、首都郊外の大学周辺には高級住宅街があり、

セレブな主婦やらも訪れるが、

美樹やその友人らビンボー学生はまず来ない。

美樹もここで食事をしたのは、実は、今日初めてなのだ。

プラザ館は五年前、大学創立百周年記念として建てられ、

キャンパス内にありながら、学外に広く開放された施設で、

市民向けオープン講座などが毎月開催されている。

全学部合同式典や学内外向けの講演、各種講座などを行う大ホールの階上に、

大小会議室や和洋中のレストランがあり、

その一つが、マスコミでよく紹介される有名シェフが初めて出した分店の、

このフレンチレストランだ。

シェフがこの大学出身で、プラザ館の建設プランナーと懇意だとか、

文学部仏文科の著名教授と友人だとか、で出店することになったらしい。

その高級レストランへ、貧乏下宿学生の美樹がなぜ不相応に来店したか、

といえば、昨日バイト代が入ったからで、

この店で食事をするのは入学前からの美樹の夢だったから、である。






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