CAMOUFRAGEカムフラージュ
暮林の熱い手の平から、
ローションの冷たい液が、
美樹の火照った肌へ、
ヒタヒタと、少しづつ、しみ込んでいく。
ただ、頬をなぞる、ゆるやかな動き。
無言の暮林の指が、暮林の熱を伝えるかのように、
美樹の中へ、
ゆっくり、じっくりと、じわりと、沁み込んでゆく。
ああ‥‥、オレ‥‥。
オレ‥‥。
美樹の目が揺れる。
暮林の黒い瞳が、美樹の心を探っているようで、
美樹は、目を伏せた。
視界をなくすと、一層、
触れるか触れないかの、微妙なタッチが際立ち、
美樹を揺さぶる。
オレは‥‥。
暮林の親指の付け根の膨らんだ部分が、
美樹の顎の線を下から上へそっと撫でていく感触が、
妙にリアルになる。
クレバヤシ‥‥、オレ‥‥。
暮林の親指が、美樹の口唇の端に当たった。
あ‥‥。
薄く目を開く。
暮林の眼差しが妖しい翳りを帯びていた。
指先が、口唇を割れ目に沿って移動していく。
ああ‥‥。
美樹がピクリと身体を震わすと、
暮林は、
オレ、やっぱ、ダメだ、
と、小さく嘆声を吐き、
「な、ミキ‥‥。
最後に、もういっぺん、キスさせて」
と、低い声で囁いた。
美樹は、ただ、
暮林の顔が、近づいてくるのを感じながら、
目を閉じた。
口唇が、
その柔らかさを確かめるように、
そうっと、押し付けられる。
ペトリと口唇を合わせられ、チュッと吸い付く。
緩めてまた吸う。
美樹の口唇の感触をしっかりと味わうかのように、
幾度も甘噛される。
暮林の舌先が、躊躇うように、
ソロッと、美樹の口唇を舐め、
暮林の口唇が離れた。
暮林の瞳が開けられ、美樹と目が合わさる。
暮林は、左手でスッーと美樹の頬をなぞりながら、
「もういっぺんいい?」
と、訊いた。
美樹は、
あ‥‥ああ、と、乾いた喉から掠れた声を出す。
暮林は、手を頬から下へ滑らせて、
クイッと親指で顎を上げさせた。
美樹の身体をグイと抱きしめて、口唇を塞ぐ。
今度は、躊躇いなく舌先を口唇の割れ目にさし入れて、
美樹の舌を絡めとって吸い上げた。
ゆっくり、なめらかに、二つの舌が絡み合う。
唾液が混じり合い、トロリと糸を引く。
濡れそぼり重なり合った舌が、
互いの口腔をより深くへより深くへと彷徨う。
ああ‥‥、あ、‥ア、ア‥‥。
熱い吐息が重なる。
ああ。
オレ、オマエのキスが、嫌じゃない。
オレ、オマエが、キライじゃない。
また、涙が出てくる。
オレ、どうしちまった?
オレ、ナンカ、オンナみてえ。
なんで、悲しいンだ?
なんで、オマエは、オレに、キスすんだ?
オレは‥‥、オンナじゃない‥‥。
美樹が泣いているのに気付いた暮林は、
顔を離した。
「もう、いや?」
美樹は、顔を横に小さく振り、
暮林の肩口に顔を伏せた。
「オレ‥‥、オンナじゃナイぜ‥‥」
暮林は、少し間を置いて、答えた。
「アタリマエだろ。ミキはオンナじゃない」
顔を伏せたままで、美樹は言葉を続ける。
「オマエ‥‥、オレ、オンナ扱いしてンだろ‥‥?」
なに言ってる、と、
暮林は、俯いたままの美樹の頬を両手で挟んだ。
「外見のコト、言ってンの?」
と、美樹の顔をそっと上向かせた。
「キレイってのはさ、
オトコとかオンナとか、関係ないだろ?」
美樹の目に言い聞かすように、言う。
「オマエのようなヤツには、分からない」
クレバヤシには、分からない。
「この顔も、
焼けねえで赤くなるだけの、この肌も‥‥、
オレは‥‥、キライなんだ‥‥」
暮林は、微かな息を漏らした。
手を伸ばし、美樹の頬に触れる。
「そんなコト言ったら、オフクロさん、悲しむぜ」
その指は、また、美樹の頬を撫でていく。
「オレは、ミキの、この細い顎の線も、
透きとおるように白いなめらかな肌も、
焼けないで赤くなる肌も、
意志の強そうな、薄い茶色のきれいな目も、
ツンとした、尖った形のいい鼻先も、
似合わねえ言葉を吐く、柔らかいピンクの口唇も、
オレは、好きだぜ」
「オレは‥‥、キライ‥‥だ‥‥」
くぐもった声が、小さく震える。
「オレは、
今、ここに居るミキが、
オトコのミキが、好きだぜ」
暮林は、美樹を抱き寄せた。
あ‥‥。
「ミキが、好きだぜ」
オレが‥‥好き‥‥。
好き‥‥?
温かい手が、美樹の背中を包む。
愛おしむように撫でる。
「だから、キライなんて、言うなよ」
耳元で宥めるようにささやく、
暮林の優しい低い声が、
背中を覆う暮林の柔らかい手の感触が、
美樹の高ぶった感情を、少しずつ静めていった。
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