Neko





CAMOUFRAGE
カムフラージュ








どれほど、暮林の腕に包まれていたのだろうか。

その胸の中に抱かれていたのだろうか。

暮林は、温かい。

ドク、ドク、ドク。

ドク、ドク、ドク。

互いの心音を聴く。

互いの体温を感じる。

コノ熱ヲ、オレハ、ハナセナイ。

美樹がずっと抱えていたコンプレックスが、

暮林のヒトコトで、

少しずつ溶けて流れていく。

その手を、今、離すには、

暮林の胸の温もりは、

居心地が良すぎるのだと美樹は分かってしまった。

暮林とのキスが蜜のアマサを持っていることを知ってしまった。

オレが、好きだ、と、クレバヤシは言った。

オマエのキスは‥‥、そういう意味か?

美樹は、暮林の肩に伏せていた顔を起こし、

暮林から身体を離した。

オトコのオレをスキ?

見たことがない、

どこか哀し気な暮林の顔が、すぐそこにあった。

「もう、手放せないよナ‥‥」

低い嘆くような声。

もう手遅れだ、 と、暮林は苦しそうに笑った。

左手で美樹の右手首を掴み、

人差し指の先を伸ばし、暮林の胸に当てさせた。

「ココ、ミキに、ヤラレチマッテル」

オマエのスキはそういう意味なのか?

オレは‥‥。

オレは‥‥。

「オレら、最初からやり直せねえ?」

やり直す‥‥?

「恋人のフリとかじゃなく、オレらが、出会うトコから」

出会って‥‥。

「な、ミキ、オレを、好きにならね?」

オマエを好きになる‥‥。

オトコのオマエを?

オレは‥‥。

美樹は、暮林から顔を外し、床に目を送る。

暮林が床に付いてる右手の先。

そこには、暮林と夏希の写真があった。

夏希ちゃん‥‥。

そう‥‥。そうだ‥‥。

オマエのトクベツ。夏希ちゃん。

そうなんだろ?

「夏希ちゃん‥‥は?」

床の写真に目を置いたまま、美樹は口を開いた。

ナツキは‥‥、と言いかけ、暮林は口を噤む。

オレらの間に、写真がある。

「ナツキとは、もう無理なンだ」

そう言った暮林の顔はどこか淋しそうで、

美樹は問いを重ねてしまった。

「なんで?」

少し間を置いて、ナンデモ、と暮林は答えた。

それ以上は訊けないキッパリとした言い方。

ずっと纏わり付く疑問。

夏希ちゃんと別れたい、というのは変わらないンだナ。

約束したのはオレ。

オレは、オマエがキライじゃない。

だから‥‥。

「オレ、続けてやってもいいぜ、恋人のフリ」

暮林の瞳が驚いたように見開く。

「オマエ、困るンだろ?」

真意を確かめるように美樹の目を見つめた。

「恋人のフリ、か‥‥」

自分にいい聴かすかのように小さく呟き、

フッーと、暮林は大きく息を吐いた。

「いいのか?」

ああ、と美樹が頷くと、

サンキュ、と、いつもの暮林の顔に戻った。

オレは、今、このまま、クレバヤシを手離したくない。

そう、思っているのは、確かだ。

オレは、ホモじゃない。

だから、オレ、「カムフラージュ」を続けてヤルよ。

美樹は、その写真を視界から外した。


オレはズルい‥‥。








               
                 *お立ち寄りくださりありがとうございます。
                  都合により1月24日まで更新が滞ります。
                  25日からがんばって更新する予定でおりますので、
                  よろしかったらまたのぞいてやってください。





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